開けてーと騒ぐ猫たちを、ベランダに解き放てば、朝焼けの冷たい空気が部屋の中一杯に流れ込んできた。
東京の初秋の朝だね。
島に帰っている間に、東京はさっさと秋になっていた。
両親ともに少しずつ回復の兆しが見られるのもあり、いったん東京に戻ってきた。
長兄が残ってくれたので、気が軽かった。
奄美空港を離陸したことさえ気がつかないほど、爆睡していた。気がつけばもう空の上。
白い雲で地上と切り離されたそこには、雲が斜陽に照らされて、グランドキャニオンのような世界を見せてくれていた。
機が東京上空にさしかかる頃には、真っ赤になった夕日は、赤い帯で飛行機と東京湾を結んでいた。
「東京に戻るね」と父にいうと「2,3日したらまた帰って来るでしょ」という。「うん」としか、言えなかった。
家出同然に家を飛び出して、そのまま東京に住んでしまった私に、一度も「帰ってこい」とは、言わなかった。
でも、帰ってきて欲しかったのかもしれない。いつか帰ってくると待ってくれていたのかもしれない。
あれから20余年も経ってしまった。いつでも帰れるつもりでいたけれど、ずっと暮らしていくということは、かなり難しいのだと、思い知らされたような気がする。